別冊『中世歴史めぐりyoritomo-japan』




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2013年2月5日火曜日

餅売りの嫗と源頼朝・・・伊豆の国市成願寺の伝説

(文は、伊豆の国市原木にある成願寺で頂いた資料です。)


韮山・原木に成願寺という寺がある。

この寺は頼朝が名もない餅売りの嫗(おうな)の望みをかなえて、創建されたものである。




その昔、源頼朝蛭ヶ小島に流されている若いとらわれの身であった。

ひそかにいだく望みもあって、頼朝は毎朝のように、道のりが二里もある三島明神に参詣するのだった。

この道すじの原木にいっけんの茶店があって、嫗がやわらかい草餅を売っていた。

頼朝はときどき茶店によってひと休みし、草餅を食べるのだった。

嫗はどういうわけか、孫のような頼朝のきしょうが気にいり、よくかわいがった。

頼朝もまた、嫗の手づくりの草餅をたべながら語り合っていると、肉親のような安らぎをかんじ、気やすくなるのだった。

いつしか、よい草餅ができたときなど、わざわざ蛭ヶ小島の館にまででむいて、頼朝の心をなぐさめるようになった。

「ご武家さまは、いまにきっと立派なおかたになりますじゃ、わたしにはそのようにみえまする」

頼朝は嫗のことばを、にこにこ笑いながらも、いちいちかみしめて聞いているのだった。

そして、この嫗の目をうらぎってはならないと思うのだった。

「いやいや、なれぬかもしれん、なるかもしれん、夢のようなはなしじゃが、もしなれたらたんとお礼をせねばならんな」

と、じょうだんをいいながら、おいしそうに草餅をほうばるのだった。


時は水の流れのように移っていった。やがて、世は源氏のものとなり、頼朝は苦難の末に鎌倉に幕府を開くことができた。

嫗は、頼朝の出世をわがことのようによろこんだ。

(わしの目にくるいはなかった)とおもいながら、若い日の頼朝の気しょうの張った姿をおもいおこしながら、

「よかった、よかった、さぞりっぱな大将軍さまにおなりなさったろう」

とひとりつぶやくのだった。

嫗はもう死んでもよいと思ったが、せめてこの世の見納めに、一度だけでも頼朝に会っておきたかった。

でも、その気持ちをとどけられないのがかなしかった。

さとくさかしいおかただから、忘れるようなことはないと思いながらも、あてのない日々をむなしく待つのがつらく、ようやくほそぼそと餅売りを続けていた。


そんなある日、数人のいかめしい鎌倉武士が、原木の嫗の店先に馬でのりつけた。

嫗はなにごとかと、うろたえていると、武士たちはていちょうに、

「わしどもは鎌倉将軍のじきじきの使者として参った。

そちは、餅売りの嫗であろうな、将軍さまがたってのお召しじゃ、はやくしたくをしてくだされ」

というのだった。

店先にはちゃんと立派な駕籠が用意されていた。

嫗は心まちにしていた夢がかなえられるよろこびに、胸をおどらせて駕籠の人となり、鎌倉にでむいた。

飛ぶ鳥を落とすようないきおいと、ほしいままに権力をふるう鎌倉将軍の前にでた嫗は、おそれをなして顔を上げることもできず、ひれ伏していた。

「嫗よ、たっしゃであったか、よく生きていてくれたのう。

わしは今日の日を、どれほどまちのぞんでいたことか・・・・・

それにしてもよく来てくれた、あの日の約束じゃ、なんなりともとらせてやりたい。

のぞむものを早く申すがよい・・・・・」

頼朝の声は明るく、そしてたしかなひびきをもっていた。

よろこびとなつかしさに嫗は涙で両ほほをぬらすのだった。

ようやくして、顔をあげた嫗の涙のかすむ目に、少年の日の頼朝の姿と、今をときめく将軍の姿が、二重映しとなってぼんやりとみえるのだった。

「わたしになんの望みがございましょう、お声をかけていただいただけで、じゅうぶんです。

その上、将軍さまのりっぱにおなりになったお姿に接することができ、これだけで本望でございます」

「いやいや、なんなりと申せ、わしも約束だけは果たしておきたいのじゃ」

「もったいないことでございます・・・・・、

でも、たってもとのおことばでしたら、お寺を建てていただきたくぞんじます」

嫗には、地位も、栄華も、金銀や財宝も無用のものであった。

この上はせめて、自分がこの世から安心して往生できるささやかな、寺がほしかった。

将軍は、欲のない嫗のねがいを、しずかにきいていたが、深くうなずくのだった。

嫗のねがいは、やがて頼朝によってかなえられ、原木の地に成願寺が建てられた。

そして、嫗をかたどった木彫の像まで寺におさめられたのだった。

「豆州志稿」「伊豆の伝説」




https://www.yoritomo-japan.com/nirayama-jyoganji.htm


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